脱北者を題材にした映画は少なくない。ただ、その多くは北朝鮮からの脱出過程や政治的対立に焦点を当ててきた。
7月8日に韓国で公開される映画『ハナ・コリア(韓国語原題訳)』は、少し違う視点からこのテーマを描く。自由を求めて韓国に渡った後も続く、適応と生存の現実に向き合った作品として、公開前から関心を集めている。
『ハナ・コリア』は韓国とデンマークの合作映画で、脱北者のヘソンが韓国社会に定着していく過程で直面する現実を描く。実話をもとにした作品で、デンマーク出身のフレデリック・ショルベア監督にとって初の長編劇映画として知られている。公開を前に、16日に公式予告編が公開された。
この映画が注目されている大きな理由は、「脱北の成功」ではなく「脱北後の人生」に焦点を当てている点だ。北朝鮮を離れ、韓国にたどり着けばすべての問題が解決すると思われがちだが、実際には言葉や文化、仕事、人間関係、生活習慣など、乗り越えなければならない壁は多い。
映画は、まさにその現実を正面から描いている。

自由を得た後も、現実は続く
主人公のヘソンは北朝鮮を離れ、苦労の末に韓国へたどり着く。しかし、彼女を待っていたのは、ただ幸せな新生活ではなかった。
すべてが見知らぬものだった。話し方や生活様式だけでなく、人との距離の取り方も一から学ばなければならない。北朝鮮では経験したことのない競争社会や資本主義の仕組みの中で、生きていくための新たな挑戦が始まる。
物語は、ヘソンが母に宛てた手紙を軸に進んでいく。その手紙を通して、観客はヘソンの孤独や不安、希望、そして挫折を見つめることになる。
そのため『ハナ・コリア』は、単なる政治映画ではない。一人の女性の成長の物語であり、見知らぬ社会で居場所を探す人々の物語としても読むことができる。

『Pachinko パチンコ』キム・ミンハの新境地
この映画でもう一つ注目されているのが、主演を務めるキム・ミンハだ。
世界的に話題となったドラマ『Pachinko パチンコ』で印象的な演技を見せたキム・ミンハは、本作で脱北者のヘソンを演じる。
キム・ミンハは今回、感情を大きく爆発させるのではなく、抑えた表現で人物の内面を描いたとされる。慣れ親しんだ世界を離れ、新しい環境に適応しようとするヘソンの不安と孤独を、繊細に表現しているという。
さらに、Netflixシリーズ『イカゲーム』シーズン1に出演したキム・ジュリョン、ポン・ジュノ監督の映画『Okja/オクジャ』に出演したアン・ソヒョンも参加し、物語に厚みを加えている。
キム・ミンハは『Pachinko パチンコ』で在日コリアンの人生を演じたのに続き、今回は脱北者の人生を演じる。異なる時代と環境の中で、自分の居場所やアイデンティティを探す人物を続けて演じる点でも関心を集めている。
シャロン・チェも共同脚本に参加
映画ファンの注目を集めている理由は、キャストだけではない。共同脚本に参加した人物にも関心が寄せられている。
映画『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞で注目を集めた際、ポン・ジュノ監督の通訳者として世界的に知られるようになったシャロン・チェが、本作の共同脚本に参加した。
シャロン・チェは、韓国と海外の文化をつなぐ存在として知られてきた人物だ。本作でも、異なる文化の間で生まれる距離感や、アイデンティティの揺らぎを繊細に描いたとされる。

釜山国際映画祭でも注目
『ハナ・コリア』は正式な公開前から映画界で注目されていた。
釜山国際映画祭に招待され、観客や批評家の関心を集めた。脱北者を刺激的な題材として消費するのではなく、現実的な視点で見つめた作品として評価されている。
脱北者を劇的な素材として扱う作品もある中で、『ハナ・コリア』は一人の人間の生活を静かに追っていく。その点が、ほかの作品との違いとして受け止められている。
大きな事件よりも、日々の変化や心の揺れに焦点を当てている点も特徴だ。
韓国社会が目を背けてきた問い
韓国社会が見過ごしてきた問い韓国には、数万人の脱北者が定着して暮らしている。
しかし、一般の人々がその実際の生活に触れる機会は多くない。ニュースで取り上げられる場合も、政治的な問題や事件を中心に語られることが多い。
現実には、就職や経済的な困難、社会的な偏見、文化の違い、アイデンティティの混乱など、さまざまな問題がある。脱北は終わりではなく、その後にも向き合わなければならない課題が続く。
映画は、そうした現実を大きな政治的スローガンではなく、一人の女性の視点から描く。
だからこそ『ハナ・コリア』は、脱北者だけの物語ではない。見知らぬ環境に適応しようとする移民、新しい職場や土地で再出発する人、人生の転機に立つすべての人に重なる物語でもある。

いま注目される理由
近年の観客は、単に刺激の強い物語よりも、実際の人々の生活や感情に根ざした作品に関心を寄せている。
社会的なメッセージを持ちながらも、人間的な共感を引き出す作品が支持される流れもある。
『ハナ・コリア』も、大きな政治的議論より、一人の人生に焦点を当てる。自由を得た後も続く現実の壁と、その中で自分の人生を築こうとする女性の姿は、多くの観客の共感を呼びそうだ。
脱北は終わりではなく、新たな始まりでもある。映画『ハナ・コリア』は、その始まりの先にある物語を描いた作品だ。公開前から「従来の脱北映画とは違う」と関心を集めている理由も、そこにある。
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